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日本から多くを学んだ半導体生産で世界席巻の創業者

日本のスーパーコンピューター富岳、米アップルのiPhone、自動運転車……。これらが搭載する高性能半導体の生産を多く引き受けるのが、台湾の台湾積体電路製造（TSMC）だ。世界中の500社のため黒衣に徹するハイテク企業の創業者、張忠謀さんにビジネス成功の秘訣（ひけつ）を聞いた。
台湾はいまや、世界の半導体生産の一大拠点です。あなたにとって「半導体」とは何ですか？
「運命の同伴者ですね。もともと半導体の道に進むつもりはありませんでした。社会人になる時、四つの選択肢のオファーをもらったのですが、その中の一つに当時、新分野だった半導体がありました。運命が私を半導体と結びつけたのです」
TSMCは高性能半導体の生産を請け負う受託生産会社（ファウンドリー）では世界最大手。日本メーカーで定着しなかった受託生産で、TSMCが成功した理由はどこにあるのでしょう。
「製造だけに特化し、注文を出す顧客と競争相手にならないことを原則にしたことが大きいと思います。創業以来、もっとも重要視してきたのは、顧客から信頼を得ることです。だから、軽々に約束はせず、仮に注文を受けた後でコストがかさんで損失が出る事態になっても、やり遂げてきました」
「顧客と競争しない」戦略が生まれたきっかけは。
「行政の傘下にある工業技術研究院の院長だった1985年、科学技術担当の閣僚から半導体メーカーを国内につくるよう指示されました。研究院は、それまでの10年間は集積回路の研究を行っていたのですが、今度はビジネス面で成果を求められたのです」
「その時点で、台湾における半導体の製造技術は、残念ながら、最先端の水準から2世代半は遅れていました。半導体を設計する技術もなく、主要市場だった欧米や日本などへのマーケティングの力もありませんでした。一方、台湾の半導体には良品率が高いという長所があり、かつて私が経営に携わった米半導体メーカー2社よりも優れていました。私はここに目を付けました」
当時、世界の半導体市場は日米のメーカーが熾烈（しれつ）な争いを繰り広げて、半導体摩擦と呼ばれていました。後発の台湾メーカーが食い込むのは大変だったのでは。
「その頃、世界の半導体メーカーの99%は製品の設計から製造、販売まですべてを1社で完結させる『垂直統合型』でした。製造だけに特化する新たなビジネスモデルをつくれば、世界市場で勝負できると考えました。前例がなく、創業資金の2億2500万ドルを集めるのに1年近くかかりましたが、87年に創業してしばらくは競争相手がまったくおらず、我々の独占状態が7～8年続きました」
業界では「垂直統合」が基本だった当時、一体、どこから注文をとってきたのですか。
「半導体の設計会社です。世界では90年代にかけて雨後のタケノコのように設計会社が続々、登場しました。米クアルコムの設立はTSMCとほぼ同時期で、米エヌビディアも90年代にできました。設計会社が増えたことで、製造に専念していた我々の顧客基盤も固まり、急成長できたのです」
世界的な分業化の波に乗ったということですね。マーケティング力不足という弱点はどう解決したのですか。
「当初から私は会長を務め、社長については初期の3代は米国人に任せるという経営スタイルをとりました。彼らは、米国の半導体業界での優れた経験があり、米国だけでなく、欧州の顧客もどんどん開拓してくれました」
研究開発費「削減したことない」
研究開発には毎年、多額の費用を投じていますね。
「研究開発はとても重要です。2000年前後に、技術面で業界を先導するということを企業戦略に据えました。それまでのTSMCはライバル企業を追う側でしたが、先駆者になる時がやって来たと考えたのです。これまで研究開発費を削減したことはなく、毎年、収益の8・5%（19年は約3200億円）を維持しています」
「垂直統合型メーカーは設計と製造の両方で研究開発をしなければならない。一方で、製造に特化している我々は、製造面だけで済みます。設計の研究開発は顧客自身にしてもらえばよい。この方法で我々は他の企業よりも研究開発費を多く投入できるのです」
TSMCは19年までの4年間で総額約500億ドル（約5兆5千億円）もの投資をしました。需要の波が激しい半導体市場で大胆な設備投資を続けられた理由は？
「我々は投資してきましたが、決して『投機的な』投資はしませんでした。常に顧客をパートナーとみなし、顧客の需要予測に基づき、生産設備などに投資してきました。もちろん自ら判断もしますが、顧客による需要予測は過去何回かの不況期を除けば、いつも積極的で現実的な内容でした」