ハプスブルク家がアントニオ猪木化していることについて検証してみた

科学が解明、「ハプスブルクの顎」は近親婚が原因だった

​2025年9月26日

​かつてヨーロッパに絶大な影響力を誇った名門王家、ハプスブルク家。その肖像画に描かれる一族の多くが持つ、突き出た下顎と厚い下唇という特徴的な顔つき、通称「ハプスブルクの顎」。長年、一族内での結婚が原因ではないかと囁かれてきましたが、近年の科学的研究がその歴史的仮説に明確な答えを出しました。専門家は、これは何世紀にもわたる近親婚が招いた「遺伝子の悲劇」であると指摘しています。

​肖像画を「診断」した研究者たち
​スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大学の研究チームが発表した研究結果が、この問題に大きな光を当てました。研究チームは、歴代ハプスブルク家の王族15人の肖像画66点を収集。10人の顎顔面外科医に依頼し、医学的見地から顔の変形の度合いを「診断」するという、ユニークな手法を取り入れました。
​診断の結果、医学的に「下顎前突症」として知られるこの特徴が、多くの肖像画で確認されました。特に、スペイン・ハプスブルク家最後の王カルロス2世において、その症状が最も顕著であったことが改めて示されました。

​近親交配の度合いと見事に相関

​研究の核心は、この顔貌の特徴と、遺伝的な近親交配の度合いとの関係を分析した点にあります。研究チームは、6000人以上、20世代以上にわたる詳細な家系図から、各個人の「近親交配係数」を算出。この数値が高いほど、血縁の近い者同士の間に生まれたことを意味します。
​分析の結果は衝撃的なものでした。近親交配係数が高い人物ほど、下顎の突出の度合いが著しく強いという、明確な正の相関関係が統計的に示されたのです。研究を主導したロマン・ビラス教授は、「我々は初めて、ハプスブルクの顎と近親婚との間に直接的な関係があることを科学的に証明した」と述べています。

​権力維持が招いた遺伝的代償

​ハプスブルク家は、領土や財産、そして「青い血」と呼ばれる高貴な血統を他家に渡さないため、叔父と姪、いとこ同士といった極めて近い親族間での結婚を戦略的に繰り返しました。この慣習が、通常であれば表に出にくい劣性の遺伝情報を子孫に蓄積させ、特徴的な顎として顕在化させたと考えられます。
​この遺伝的代償は、単に外見上の問題にとどまりませんでした。一族の乳幼児死亡率の高さや、カルロス2世が後継者を遺せずにスペイン・ハプスブルク家が断絶した原因も、この近親婚による遺伝的多様性の喪失にあると専門家は見ています。
​歴史のベールに包まれていた王家の身体的特徴。その謎が科学の力によって解き明かされ、権力維持のために払われた大きな代償を、現代の私たちに静かに物語っています。
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