女『今歩いているこの道が、いつか懐かしくなるのかな』

1 : 2021/10/02(土) 03:27:07.923 ID:sqgqIuc20
男「うっし、引越しの荷物はこれで全部だな」

男「あー腰いてえ」

男「あとは…これだけ書斎に持ち込んでおくか」グイ

……

男「っと」ドサ

カチャン

男「ん? なんだこれ」

男「カセットテープ?」

2 : 2021/10/02(土) 03:27:30.554 ID:sqgqIuc20
【20××.3.20 17:00】

男「1年くらい前のテープか」

男「前に住んでた人の忘れものかなんかかな」

男「かけてみるか」

ガチャリ

男「再生……と」カチカチ

ザ……ザー……

女『あー、あー』

女『聞こえますか?』

男「ん?」

3 : 2021/10/02(土) 03:27:46.501 ID:DkAeTzpS0
第一部 完
4 : 2021/10/02(土) 03:27:47.710 ID:sqgqIuc20
女『えーこんにちは』

男「はあ」

女『今日、この家に引っ越してきたものです』

女『新しい生活にわくわくしています』

男「なんだ、自分語りか。くだらねえ……」

女『あなたに聞いてもらいたくて、このカセットテープに吹き込んでいます』

男「え」

女『一人きり、新しい生活』

女『ペットも飼えないし、寂しいし』

5 : 2021/10/02(土) 03:28:24.021 ID:55HD0AYm0
カセットテープが一年前…?
8 : 2021/10/02(土) 03:29:36.094 ID:JE3jbmii0
誇ってる(ほるってる) 歩いてる(ありいてる) 泳いでる(おるいでる) 糞いてる(あるいてる)
9 : 2021/10/02(土) 03:29:36.237 ID:JEhDbBcj0
はよ
10 : 2021/10/02(土) 03:30:04.682 ID:GeuCsLUD0
なんかの歌詞にあった気がする
11 : 2021/10/02(土) 03:30:17.858 ID:sqgqIuc20
女『あ、このテープは、私のさらに前の人のものみたいです』

男「あん?」

女『なんかミュージシャンの人だったみたいで、録音装置とかカセットが山ほど残ってて』

女『だから有効利用してみようかな、と思いまして』

男「はは、ヒマなやつだな」

女『次の入居者さんに向けて、私のお喋りを録音します』

女『これから毎日、一本ずつ録音していきたいと思います』

男「おいおい」

女『だってめちゃくちゃいっぱいあるんだもん、テープ』

12 : 2021/10/02(土) 03:30:18.266 ID:7VvGF+Nwd
強姦に襲われた道?
13 : 2021/10/02(土) 03:30:36.822 ID:sqgqIuc20
女『この書斎を私の生活スペースにしようかな、と思います』

女『ここなら録音も読書もできるし、音楽も聞けるし』

男「ん、確かにいい部屋だな」

女『窓も大きいし』

男「……防音じゃねえのかな」

男「窓がある録音室ってどうなんだ」

女『このテープ、片面10分なんで、一日10分だけのお喋り』

女『B面は使いません』

男「お喋りって言っても……おれの声は聞こえないだろうよ」

14 : 2021/10/02(土) 03:30:56.263 ID:sqgqIuc20
女『という訳で、明日も聞いてくれますか?』

男「……」

女『……聞いてくれたら、いいな』

男「……」

女『あ、これを1年後の同じ日に聞いてるとは限らないですよね』

男「うん」

男「今日は……3月24日だし」

女『今日の分まで、一気に聞いちゃってください』

女『それで、次の日から一日一本!!』

男「栄養ドリンクみたいだな」

女『どうでしょう?』

男「どうでしょうって言われても」

女『先のテープは、まだ聞いちゃダメですからね!!』

15 : 2021/10/02(土) 03:31:30.691 ID:v8ifyf/Z0
中2のときに邪悪な力に憧れ、自らを背信堕落王の生まれ変わり、暗黒丸と名乗っていた。
常日頃からクラスで「僕の暗黒力を発動させれば、このクラスの人間を一瞬で皆殺しにできるよ」等の発言ばかりしていたため、当然のように激しいいじめや無視の対象になった。
学園生活があまりにつらかったため、自分の設定を「暗黒力を使い、魔の者からみんなを守る」に変更したが、周りの対応に変化ナシ。業を煮やした俺は期末テストの最中に勢いよく立ち上がり、
優しい笑みを浮かべながら「みんな…大丈夫だ…俺は、俺はまだ戦える」と言い放ち、ベランダに駆け出して、ドラゴンボールの気を溜めるようなポーズで「我が名は暗黒丸!きっとみんなを守ってみせる!うおぉぉぉっ!!」と大声で叫んだ。
13年たった今考えても大丈夫じゃないし、今でも地元には帰りたくない。
セーラームーンのカードを持ち歩き、やたらと取り出しては「これが俺の永遠の恋人」とか言っていたのも深刻なダメージのひとつだなー
16 : 2021/10/02(土) 03:31:36.714 ID:sqgqIuc20
女『それじゃあ、また明日』

ガチャリ

男「……」

男「10分ってあっという間なんだな」

男「ま、することもないし、次のやつ聞いてやるか」

【20××.3.21 17:00】

女『えっと、昨日と同じ時間に録音してみました』

女『これを聞いてくれてるってことは、私のお喋り、聞いてくれる気になったんですね』

男「……」

女『うれしい!!』

男「……はは、お気楽な子だな」

17 : 2021/10/02(土) 03:31:39.014 ID:HF97JwJG0
めっちゃ懐かしいSSだな
スレタイは斉藤和義の幸福な朝食とかそんなだったきがする
19 : 2021/10/02(土) 03:32:11.581 ID:sqgqIuc20
女『私、この春から異動してきたんですよ』

男「移動?」

女『まだ新米だから勉強も必要だって言われて』

女『町の代理店に、明後日から出勤なんです』

男「ああ、『異動』か」

女『楽しみなような、不安なような……』

女『でもここになら、不安をぶちまけることができそうだし、ちょっとこのテープ、頼りにしてます』

男「おれは一方的にぶちまけられるだけかい」

女『あなたの悩みも、時々聞きますよ♪』

男「聞こえねーだろ」

20 : 2021/10/02(土) 03:32:46.612 ID:sqgqIuc20
女『ここ、すっごく交通に不便ですよね』

女『なにしろ町までバイクで30分!!』

男「じゃあなんでここ選んだんだよ」

女『伯父の紹介で、すごく安かったんですよ』

男「お」

女『まだ貯金も全然ないし、安さに勝る優先条件はないですよね』

男「なんか、今、会話みたいになったな」

女『だからここに決めたんです』

男「ちょっと面白いかも、な」

22 : 2021/10/02(土) 03:33:05.580 ID:sqgqIuc20
女『とりあえずは1年ちょいの契約』

女『こっちの会社での研修期間も1年なんです』

男「短いな、研修」

女『早く研修終わって、一人前になりたいけど』

女『この家に1年しかいないっていうのはもったいない気がします』

男「だよな」

女『でも次の入居者さんももう決まってるっていうし、仕方ないですね』

男「ん? それっておれのことかな」

男「家決めたのって、いつだっけかなあ」

男「だいぶ前から目はつけてたけど……」

24 : 2021/10/02(土) 03:33:34.384 ID:sqgqIuc20
女『明日はちょっと町へ出てみようかと思います』

男「去年22日は、休みの日だっけ」

女『色々と買い物もしなくっちゃね』

男「おお、参考にしようかな」

女『あなたも引っ越してきたばかりなら、参考にしてくださいね』

男「はは、見透かされてんな」

女『それじゃあ今日はこの辺で』

男「……早いな」

女『おやすみなさい』

男「早いだろ」

ガチャリ

26 : 2021/10/02(土) 03:34:12.536 ID:vSVzBj7K0
読んでます
28 : 2021/10/02(土) 03:34:53.310 ID:sqgqIuc20
【20××.3.22 19:00】

女『今日はちょっとしたハプニングが』

男「おお、いきなりどうした」

女『町に着いた途端ガス欠になったんですよ』

男「あ、はは、遠いしなあ」

女『ガソリンスタンドを探すのに手間取って、あんまり満足にお買い物できませんでした』

男「あーあ」

女『ていうか、バイクって重いんですね』

男「ずっと押してるとそう思うよな」

男「乗ってるだけだと気づかないもんだ」

29 : 2021/10/02(土) 03:35:09.462 ID:sqgqIuc20
女『でも、良い発見もあったんです』

女『町への一本道、途中に桜並木道があるんですよ!!』

女『ちょっとだけ、咲き始めてましたよ!!』

女『満開がすっごい楽しみです!!』

男「へえー」

女『あなたも、満開の頃にぜひ見に行ってみてくださいね』

男「いいな、それ」

女『絶対ですよ!!』

男「はいはい」

31 : 2021/10/02(土) 03:35:23.801 ID:sqgqIuc20
女『あなたがどんな人なのか、興味があります』

男「お」

女『何歳くらいかな』

女『男の人かな、女の人かな』

女『どんなお仕事してるのかな』

女『ってね』

男「おれは……20代のしがない小説書きだよ」

女『当ててみましょうか』

男「はは、やってみな」

女『小説家の人でしょう』

男「!!」

32 : 2021/10/02(土) 03:35:39.416 ID:sqgqIuc20
女『はは、びっくりしましたか?』

男「う、うお、え」

男「嘘だろ」

女『なーんて』

男「は?」

女『当てずっぽうじゃないですよ』

女『不動産屋さんに、聞いてたんです、次に住む人のこと』

男「な、なんだ、驚いたわ、くそ」

33 : 2021/10/02(土) 03:35:56.732 ID:sqgqIuc20
女『まあ詳しいことはもちろん聞いてませんけどね』

男「プライバシーというものがあるからな」

女『いいな、私も小説好きなんです』

男「へえ、そりゃあいいことだ」

女『私の知ってる作家さんだったりして』

男「ないない、超無名だから」

男「ていうか去年の今頃だと一冊しか書いてないから」

女『想像すると楽しいですよね』

女『名前、言っちゃダメですよ』

男「言っても聞こえねーだろ」

35 : 2021/10/02(土) 03:36:11.358 ID:sqgqIuc20
女『じゃあ、今日はこの辺で』

男「おう」

女『あ、歳が近いってこともチラッと聞いたんで、明日から、敬語やめようと思います』

男「不動産屋の親父……口軽くねえ?」

女『なんか敬語だと、堅苦しくて……』

女『じゃあ、また明日』

男「ふぅ……やれやれ」

ガチャリ

男「あと2本か」

男「一気に聞いちまうかなあ」

36 : 2021/10/02(土) 03:36:39.564 ID:sqgqIuc20
【20××.3.23 20:00】

女『こんばんは』

男「はい、こんばんは」

男「こっちはまだ夕方ですが」

女『さっきお料理失敗して、家の中が焦げくさいの』

男「なにやってんだ」

女『いやあ、油断した』

男「なに作ってたんだよ」

女『ロールキャベツって、簡単だと思ってたんだけどなあ』

男「ロールキャベツ焦がせるって、それすごくね? 才能?」

38 : 2021/10/02(土) 03:36:56.426 ID:sqgqIuc20
女『今日は仕事始めだったんだけど、そっちの方は、まあ無事終了!!』

男「おお、もう始まったのか」

女『優しい先輩がいてくれて、色々と教えてくれたの』

男「そりゃあ、よかった」

女『私、偏頭痛持ちで心配だったんだけど、ここのところ調子もいいみたい』

女『一回痛くなり始めると、大変なの』

男「へえ」

男「なったことないからわからないけど、普通の頭痛よりも痛いもんなのかな」

女『あと、格好いい上司の人もいたの♪』

男「おお……ちょっと妬けるな」

40 : 2021/10/02(土) 03:37:53.525 ID:sqgqIuc20
【20××.3.24 19:00】

女『やっほー』

男「お、テンション高いな」

女『今日も快調ー』

女『先輩も格好いいしー』

女『マキさんも優しいしー』

男「はは、順調だね」

男「おれも明日からそうなるといいんだけど……」

女『今週の金曜日に歓迎会してくれるっていうから、楽しみ!!』

男「おお、いいじゃん」

男「おれも酒飲みたくなってきたな……」

女『うふふ』

男「ビールでも開けるか」

42 : 2021/10/02(土) 03:38:12.546 ID:sqgqIuc20
プシッ

ゴクゴク

男「っくぁー!! うめえ」

男「さ、続き続き」

カチャリ

女『始めてまだ少しだけど、私のことばっかり話してるね』

男「ふぅ……」

男「そりゃ、まあ、君のテープだし」

女『あなたの話も聞きたいな』

43 : 2021/10/02(土) 03:38:37.278 ID:sqgqIuc20
男「あなたの話もって……」

男「聞こえるのか?」

女『聞こえるよ』

男「……」

男「え?」

女『多分』

男「……」

女『聞こえたら、いいな、ってね!!』

男「ああ、そういうことか」

男「時々シンクロして、びっくりするわ」

44 : 2021/10/02(土) 03:38:53.416 ID:sqgqIuc20
女『小説は、進みそう?』

男「ん、まだ取りかかってないしな」

男「これから、これから」

女『どんな小説が好きなの?』

男「ん、読むなら推理小説かな」

男「おれが書いてるのはちょっと違うけど」

女『私はね、ミステリーが好き』

女『ちょっとした日常のおかしさとか、そういうの』

男「へえ」

女『本格的な推理小説は頭がこんがらがるし』

女『かといって恋愛ものもちょっとね』

男「女の子にはそっちの方が好きって子が多いんじゃないか」

女『周りの友だちは恋愛小説ばっかり進めてくるんだけどね』

男「うん、だろうね」

45 : 2021/10/02(土) 03:39:09.455 ID:sqgqIuc20
男「気分転換しながら、まあゆっくり書いていくさ」

男「君が好きそうな小説も、いつか書けたらいいな」

女『楽しみにしてるよ』

女『あなたの小説を、読む日を』

男「……」

女『うふふ』

男「はは」

女『ジャンルが違いすぎたら、どうしようって思うけど』

男「ホラーとか?」

女『ホラーとか、ね』

男「はは」

46 : 2021/10/02(土) 03:39:26.695 ID:sqgqIuc20
女『じゃあ、また明日』

男「ん、おやすみ」

女『おやすみ、またね』

ガチャリ

男「次は明日か……」

男「明日は何時だろ」

カチャカチャ

男「夜か……」

男「……」

男「とりあえず、飯作るか」

48 : 2021/10/02(土) 03:43:47.367 ID:vSVzBj7K0
…?
51 : 2021/10/02(土) 03:44:30.542 ID:vSVzBj7K0
はやく
54 : 2021/10/02(土) 03:44:53.172 ID:dq8iBCDJ0
懐かしいナコレ

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