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無人の店、ついて行った私が…　性被害、14年後の転機

性暴力による新たな被害者や加害者を生まないために――。誰にも話すことができなかった性被害の体験を人前で話し始めた女性がいる。相手への思いやりが性暴力をなくすことにつながると信じ、支援に取り組んでいる。

　新潟市中央区の「西堀ローサ」で4月18日、性暴力や性教育をテーマにしたトークイベントが開かれた。

　企画したのは、生きづらさを抱える若者を支援するNPO法人「Colorful　map」（新潟市）副理事の中村優美さん（36）。被害者の一人として、自身のつらい体験を語った。イベントでは、性暴力の根絶を訴える社会運動「フラワーデモ」を新潟県内で主催する、性暴力被害者のあずささんも登壇。性暴力は「被害者の人権をないがしろにする」と指摘し、子どもがインターネットで間違った情報に触れる前に「相手の同意がなければ、勝手に体を触ってはいけない」ことを教える性教育の必要性を強調した。中村さんは「身近な相手を思いやる、尊重する気持ちが広がることで、暴力が少なくなっていくことを願っている」と約2時間に及んだ議論を締めくくった。

誰もいない店内、床の上に押し倒された
　中村さんは20歳の時、かつてのアルバイト先の上司で、30歳以上年が離れた男性から性被害に遭った。

　一緒に飲みに行き、いつもより速いペースで酒を飲み酔いが回ったところで、「飲み直そう」と誘われ、男性が経営する店に移動。誰もいない店内で床の上に押し倒され、避妊具を着けずに性交された。自分は「性欲を処理するための道具」としか見られていなかった。「おとなしくしていれば早く終わる」とひたすら耐えた。

　事が終わると、タクシー代を渡し、男性は「またね」と言った。その言葉からは罪の意識はみじんも感じなかった。その態度にがくぜんとした。

　妊娠への恐怖におびえながら「ついて行った自分が悪い」との意識から、警察はもちろん誰にも相談できなかった。

　「自分の体は汚れている」。そんな思いにさいなまれ、酒がやめられなくなり、重度のアルコール依存症と摂食障害に。朝から酒が手放せなくなり、食べ物を口にすることもできなくなった。

　その後、約2年間の入院治療を経て退院。自助グループに通いながら、被害の8年後に社会復帰できた。

　転機となったのは、2年ほど前。国内で「#MeToo」運動が広がり、性被害の当事者が声を上げ始めた。被害を隠していても変わらない、そう思った。

　被害から14年後、初めて母に自分が経験したことを告白した。今年からはフラワーデモに参加し、当事者として人前で自身の被害を話せるようになり、次第に誰かの役に立ちたいとの思いが強くなった。

　いじめ、不登校、依存症など、生きづらさを抱える若者を支援しようと、知人と2018年にNPO法人を設立。月に1度、西堀ローサで、当事者と支援者らが明るく語り合うトークイベントを開催している。今回は初めて性暴力について取り上げた。

　「性行為は男性がリードする」という意識や、アダルトビデオの演出を現実のものと見る風潮がある限り、性暴力はなくならない、と中村さんは考える。新たな被害をなくすには「加害者を生まないための性教育が必要」という。

　自分に性暴力を振るった男性を通報しなかったことで新たな被害者を生んだのではないか。そんな思いがよぎることもある。「簡単に状況は変わらない。でも繰り返し取り上げていくしかない」。今後も性暴力をテーマにしたイベントを続けていくつもりだ。（緑川夏生）

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〈性暴力〉　望まない性的な行為。年齢や性別に関わらず、身近な人や夫婦・恋人間でも起こりうる。内閣府が20歳以上の男女を対象にした調査（2020年度）では、回答が得られた3438人のうち、4・1%にあたる142人が「無理やり性交などをされた経験がある」と答えた。女性の6・9%、男性1・0%に被害経験があった。加害者との関係（複数回答）は「交際相手・元交際相手」が28・9%で最多で、「配偶者」が16・2%。上司や同僚など「職場・アルバイト先の関係者」は8・5%だった。

　被害により「生活上の変化」があると答えた人は、66・2%に上る。「被害を受けたときの感覚がよみがえる」「自分に自信がなくなった」との回答が4割弱だった。誰かに相談した人は半数以下の36・6%。女性37・6%、男性は29・4%。相談しなかった理由は「恥ずかしくて誰にも言えなかった」が4割以上だった。

　新潟県警の性犯罪被害の相談窓口は#8103（ハートさん）

飲み飽きるまで飲み続ければ　自然に飲まなくなるよ